Stacyの日記

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大崎善生『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』の感想

読んだ本

大崎善生『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』(角川文庫)

 

2007年8月に名古屋で起きた闇サイト殺人事件について被害者に焦点を当てて書かれた本だ。被害者本人だけでなく、事件後に犯人達の死刑を求める署名活動を行った被害者の母についても生い立ちが詳しく書かれている。

被害者は2歳の誕生日を迎える前に父が病死した。それでも母や親戚に囲まれ、地味に真面目に生きてきた。31歳の誕生日を迎えて1か月後、事件に遭って亡くなった。趣味の囲碁を通じて恋人もでき、慎ましくも平凡で幸せな人生が断ち切られてしまう。

読んでいて、なぜ彼女が被害に遭わなければならないのかという不条理さと犯人達への憤りが掻き立てられる。

また、大切に育てた一人娘を奪われた母が、犯人達の死刑判決を望む署名活動に駆り立てられる気持ちも理解できる。

著者が取材を始めたのは事件から7年後の2014年で、犯人3人の裁判も結審し、主犯格1名が死刑、他の2名が無期懲役だった。主犯格は取材中の2015年に死刑が執行されている。無期懲役だった2名のうち1名は、他の犯罪が発覚し、その裁判で死刑判決が確定している。

犯行については、この3人がお金が必要になったら他人からお金を奪えばよいと安易に考えていることが信じられなかった。でも、こういう人も世の中にはたくさんいて、だから犯罪は後を絶たないのだろう。

この犯罪は、無期懲役の男が所有していたワンボックスカーで行われたが、そのワンボックスカーは闇サイトで依頼された仕事の報酬だという。本来の所有者が車両に掛けられた盗難保険を詐取するために、車両を盗難させるという闇の仕事を請け負い、報酬は盗難した現物のワンボックスカーだった。この男がワンボックスカーを所有していなければ、闇サイト殺人事件も起こらなかったかもしれないと思うと、盗難保険詐欺を依頼した者も積み深い。

闇サイト殺人事件では無期懲役になったものの、余罪が発覚して死刑判決が確定した男は、犯人3人の内で最も悪人だと感じた。この闇サイト殺人事件で捕まったことでDNAを採取され、過去の未解決事件の犯人であることが発覚した訳だが、その事件でも金銭を奪うために簡単に殺人に至っている。人の命を殺めることに躊躇がないことに震撼させられる。

この男は闇サイト殺人事件の裁判で、一審では死刑判決を受けたものの、その後の控訴審で無期懲役に減刑された。その過程で、心理テストを受け、「性格は穏やかで素直でお人好し。愛情に飢えている。そして犯罪に親和性がない。矯正の可能性が十分にあると判断された」という。余罪の発覚前だったというが、「犯罪に親和性がない」とは心理テストが信用性が疑われる。

事件から14年が過ぎた。被害者の母は娘との楽しかった思い出だけを抱き、事件のことは忘れるように努めているという。被害者の冥福を祈る。