Stacyの日記

時事ネタを中心に日常でふと思ったこと

大崎善生『聖の青春』の感想

読んだ本

大崎善生『聖の青春』(角川文庫)※Kindle

1998年に29才で亡くなった村山聖棋士の伝記。

先日読んだ『いつかの夏』に感銘を受けて、同じ著者による本書を読むことにした。

そして読後は、『いつかの夏』同様、主人公の生き様、死によって夢を途中で断たれてしまった無念さに思いが至り、放心してしまった。

棋士・村山聖は幼少時にネフローゼ症候群という病を発症し、病と共に生き、最後はガンで亡くなった。幼い頃、入院中に父から教わった将棋の虜になり、病床で将棋の勉強をするようになる。療養所で小学校生活を送るが、週末は外出許可をもらって将棋センターに通い、中学生で奨励会に入る。17歳でプロデビュー。

本書は村山聖が病に罹ってから将棋と出会い、森信雄師匠に指導を受けてプロデビューし、亡くなるまでを描いている。森信雄師匠とは、単に将棋の指導者と弟子という関係を超え、様々なエピソードが満載だった。同年代の羽生善治棋士との勝負や将棋以外での交流も面白かった。

特に印象深かったのは、途上国の恵まれない子供達の学業を支援するフォスター・プランに寄付を続けていたこと。将棋の国際振興の企画に賛同して百万円をぱっと寄付しようとしたこと。末期ガンで余命が短いことを悟り、弁護士を自ら探して遺書を用意したり、葬儀は密葬として誰にも知られずそっと世を去ろうとしていたこと。

物心がついた時には既に病と共にあり、辛い症状に耐え、死が常に隣にありながら、将棋に命がけで取り組む姿に泣けてくる。

昨日、本を読み終わって暫く放心した後、日常に戻ってプロ野球の結果をチェックした。すると、横浜DeNAベイスターズの今永投手が完投勝利したことを知った。今永投手は去年肩の手術を受け、完投勝利は2年ぶりだった。私は今永投手をずっと応援していることもあり、昨日の勝利に嬉しく思い、そしてふと村山聖と今永投手の共通点に気が付いた。

お父さんが広島大学出身であること、兄と姉のいる三人兄弟の末っ子だということ。

共通点といってもこの2点だけだが、目標とする名人位を目前にガンで命を奪われた村山聖の無念が、ケガを克服して完投勝利を手にした今永投手によって少しだけ晴らされたような気がした。