Stacyの日記

時事ネタを中心に日常でふと思ったこと

『恋するソマリア』の感想

読んだ本

高野秀行『恋するソマリア』(集英社文庫)

 

未承認国家のソマリランドと無政府状態のソマリアでソマリ人と交流し、ソマリの文化やソマリの人となりを探求した記録。

この本を読む前の私の認識は、ソマリアはイスラム系過激組織アル・シャバーブが力を持っていて、そのアル・社バーブ近隣国のケニア、タンザニア、ウガンダ、モザンビークにも進出して、度々テロを起こしている。ソマリアは困った国だし、ソマリ人も問題がありそう、という偏見に満ちていた。

しかし、ソマリ人にも日常があり、未承認国家ソマリランドは平和を維持しているし、無政府状態のソマリアでも、テロには気を付けつつも、人々は日々の暮らしを送っている。

著者は難解なソマリ語も習得し、ソマリ人ジャーナリストと交流しながら、ソマリ社会について、ソマリ人について謎を追っていく。

内容も面白いし、文章も軽快で、どんどん読み進む。

ソマリ人で特に面白いと思ったのは、おもてなし精神が強く、客人を非常に大切にするという点だ。気軽におうちにお呼ばれ、なんてことはあり得ないのがソマリ社会らしい。

ソマリア社会にアル・シャバーブが浸透していることに対する著者の考察も興味深かった。著者は、アル・シャバーブの活動は「都市を田舎の側に引き戻そうという運動」ではないかと提議し、電気も水道もない農村部では日常と地続きのアル・シャバーブの主張に特に抵抗もなく受け入れているのではないか、といった意見だった。

著者は更に、このアル・シャバーブが進める農村主体の暮らしについて、アル・シャバーブは支持しないものの、

「―― こちらの生活のほうが正しいのではないか……。」

と逡巡している。

確かに、自然と調和して、環境にやさしく、天然資源を枯渇させない農村の暮らしは正しいのかもしれない。

でも、文明を知ってしまい、便利な暮らしに慣れてしまうと、以前の不便な生活に戻ることは難しい。電気、水道、ガス、スマホ、パソコン、インターネットがない生活など考えられない。長期出張でホテル暮らしが続いた時は、洗濯機のありがたさを感じたし、体調を崩した時には医師や医師が処方する薬を頼っている。

自然に近い暮らしは正しいかもしれないが、私はそこには戻れないなと思った。

本書は、ソマリ社会やソマリ人を知るだけでなく、自分自身も問われることになって、読み応えがあった。